「神話」の持つダイナミズム
「神話」は世界中のどの民族にも存在しています。
「神話」あるいは「物語」・「民話」などは、それぞれの民族の基底を支えるものとして、研究の大きな対象となっています。
以下、「神話」あるいは深層のことについて、日本に最初にユング心理学をもたらした河合隼雄先生の業績から学びたいと思います。
ユングの深層心理の捉えかたは、我々のこころの深層は、日本神話と心の構造(西村)に深く広きにわたり普遍的無意識を持ち、そこには人類に共通するようなもの、こと、世界、宇宙をもつというものだ。しかしそれは実体としてこのようにあると考えてしまうと違ってしまい、その深層世界は宇宙の謎のようにはかり知れないのだが、イメージとして立ち現れたり感じとることが可能である。(中略)それでユング派では、古くから語り継がれてきているメルヘンや、昔話、神話などをそのような人類に共通する深層に繋がっていく心の遺産、大切なものとして扱ってきているし、個人の深層への通路、探求の道、個人神話へ至るものとして夢を大切に扱ってきている。夢は私たちのこころのなかの自然、自然の宝庫である、と。』(参照『日本神話と心の構造 ―河合隼雄『ユング派分析家資格審査論文―』岩波書店刊)
このように、この世界への認識には個々人が体験すると同時に、民族自体が深層に潜む集合無意識により共通する世界観があることを示しています。
そこで、、、
わたし達人間が、この世界をどのように認識しているのかについてなのですが、
こんな世界の見方(宇宙観)も有ります。
地球上に数多あるいろいろな民族に共通しているのは、それぞれが「神話」を持っているということです。
不幸なことに、日本では「神話」アレルギーがあります。それは、第二次世界対戦のとき軍閥によって日本神話が利用されたという歴史上の過ちがあるからです。
そのような経緯を踏まえながらも、
日本に初めて「心理学」という学問をもたらした河合隼雄先生は、
『古事記』『日本書紀』の世界を独自の観点から、また世界の神話や物語との比較を交えた広い視野から読み解いておられ、
そこに潜んでいる日本人の心性と現代社会の課題を探っています。
日本神話が自分にとって深い意味を持つことの驚きと、同時に強い抵抗感を感じた体験をされていた河合先生は、
日本人として初のユング研究所の訓練生としてスイスで学んでおられた際に、その指導者である分析家のマイヤー師から、
『自分のルーツを探ろうとしているうちに、自国の神話が出てくるのは、むしろ当然』と言われ、日本神話を基にしてユングは分析家の資格取得の論文を書こうと決心され、
さらに、神話に対する根本的な態度と大いなる価値をハンガリーの神話学者、カールケレニイ博士の出会いから学んで、同様に日本神話を論文で取り上げようという決意をされたそうです。
その最終試験の一つの論文試問の時に、試験官であったマイヤー師からは「この論文には、お前の年齢ににあわず、六十歳の知恵がある。日本に帰国したら、ここに書かれた内容を日本の人たちに伝えるのが、お前の使命だ」と言われたとのこと。
最近のグローバリゼーションの波の高まりの中で、おのずからアイデンティティに対する関心や心理学そのものに寄せる関心も一般的になってきており、さらに日本人や日本の文化のあり方について考えようとする人も増えてきているといいます。
その後河合先生は、文化庁長官などの執務を通して日本文化に対する大いなる造詣を示されていたことは皆様もご存知のことと思います。
「神話」が持つそのあり方は、世界全体の中で、日本人としてのルーツを探ろうとすることが、現代では非常に大切になってきていると言われるように、
「神話」というものは世界中の民族内に存在しており、その民族のアイデンティティを語りだす大いなる宝庫であると言えるのです。(参考・引用:河合隼雄『神話と日本人の心』岩波書店)
ドゴン族の神話に学ぶ
そうしたことから世界に目を転じてみると・・・
世界中の「神話」の中でも、例えばアフリカのドゴン族は不思議なことに、
なぜこんなことを知っていたのだろう?というような「神話」を持つ民族です。
有名なのは、シリウスに関わる神話です。
(参照:ドゴン族の民族調査をまとめた『蒼い狐』)
この下図を見てください。(岩壁に描かれていたシリウスの軌道)
この図は、ドゴン族の神話にもどついて描かれたシリウスの軌道と、
現代天文学で割り出されたものの比較です。
びっくりするほど同じものと見紛うほどの精度だと思いませんか?
こうして「神話」あるいは「物語」や「民話」自体の持つダイナミズムを参考にすることによって、
今、わたし達の生きる世界をどのように「認識」していくことができるのかを理解できるのだと思います。
まさに、、、「認識」の「認識」です。
あなたにも、そこから見える豊かな、
そして本来の世界への知的な旅をご一緒していただきたいのです。